誰も知らない。誰も見た事がない。だけど確かに存在する。キヌズBAR、キヌの日々。


叔父貴との思い出その1

その2はない。


今から6年ほど前、直希 という古くからの友人の結婚式に呼ばれた。

(僕は真近で人が変容する姿を見たことが何回かある。この 直希 もその中の一人で、、、いや、この話は個人的にマイハートにクリーンヒットする話なので長くなりそうだ。別の機会にするとしよう。 )

僕はこういうお祭り騒ぎに出席するのが非常に苦手だ。

いくかどうかとても迷ってた。

「誰がくる?」

と直希に電話で聞いた。

「地元からは叔父貴がくるよ。死ぬるさん。」


行くことに決めた。


叔父貴がくるなんて思ってなかったから。

なぜなら、叔父貴は15歳の頃から人前でご飯を食べることが出来なくなってしまった。



結婚式に呼ばれるもっと前にこんな会話したのを覚えている。


「ダメなんですよ。あの二つの穴から向けられる冷たい、人を見張るような視線が。どうも食えなくなってしまうんです。」


「でも俺ら今、焼き肉屋で肉をつつきながらしゃべってるよ?」


「どうやら、死ぬるさんはあちら側の人間ではなさそうです。だから食べれるんだと思います。」


「そう。病院は行った?精神科とか。まあ、俺が先に答えておくよ。「行ってない。」」


「いくもんですか!私からすれば、奴らは 誰かを何かの精神病にカテゴライズしたい病 に冒されています。しかも末期症状でございます。痛みを感じることの出来るまともな人間が、痛みを感じることの出来ない頭のイカれた精神科医に「あなたは頭がイカれています。」と診断される、とてもイカれた場所であるからです。」


「そうだね。もしかしたら今日もどこかの病院で、名もなき聖者が「統合失調症」と診断されているのかもね。」


「そうですとも、その 名もなき聖者 は頭を鈍らせる薬を長期間にわたって服用されます。1年後に「大丈夫?」と訪ねてごらんなさい。きっと虚ろな目をして「もう大丈夫」と答えるでしょう。その目は、、、本来の輝きを失った、量産型の目に変わっていることでしょう。」


「なんか、、、悲しいね。」


「ええ、出口がありません。そもそも入り口もありません。ただの袋小路です。抜け出す方法は、、、」


「もうやめておこう。」



僕と叔父貴二人は、披露宴にも呼ばれた。新郎新婦に一番近い席だった。

披露宴が始まり、オードブルが運ばれてきた。

叔父貴が全くオードブルに手をつけないので僕は内心ヒヤヒヤしてた。

大勢の人の前なので食べれないのか、ナイフフォークを使えないのかの判断が僕にはつかなかった。

僕は新郎である直希に視線で help のサインを送った。


直希が割と大きな声でこう言った。

「うわあ。俺、自分で会場を決めて料理も決めたのに食い方がわからねえ!ゲスいとこ育ちだからナイフフォークが使えねえ。お〜い、おはし下さ〜い。」

スタッフが素早くおはしを用意した。

「他におはしいる人いる?」

と直希が続けていった。


僕は小さく手を挙げた。

それを見て叔父貴ももっと小さく手を挙げた。

すぐにおはしが用意された。


僕はおはしを使って料理を食べ始めた。

それを見て、叔父貴も料理を食べ始めた。

ホッとした。


全国のオサレな飲食店、披露宴会場に告ぐ。

どんな料理がでるのだとしても、おはしは絶対に最初からテーブルに用意しておいてください。

それで随分たくさんの人が救われると思うのです。


披露宴も終わり、他の人たちがまだ盛り上がってなかなか帰ろうとしない中、僕と叔父貴はそそくさと会場を後にした。


後ろから直希が追っかけてきた。そしてこう言った。

「二人とも今日はきてくれてありがとう。」


「めっちゃ緊張したわ。」

と僕が答えた。


「もう二度と結婚式にはよばないでください。」

と叔父貴が言った。


「うん、呼ばないよ。」

直希が答えた。



三人で笑った。




キヌズBAR日記

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2コメント

  • 1000 / 1000

  • 一城

    2016.05.26 12:14

    @sae*kiriこんばんは。わざわざ目を通して下さってありがとうございます。 おやすみなさい。どうか、どうか、良い夢を。
  • sae*kiri

    2016.05.26 12:06

    こんばんは🌙キヌさんのblog読んで今とっても癒されました。オヤスミナサイ。