誰も知らない。誰も見た事がない。だけど確かに存在する。キヌズBAR、キヌの日々。


叔父貴との会話。その1

先に言っておくけどその2はない。


今日は何もすることがない。やりたいと思うこともない。

かといって落ち込んでいるわけでもないし、高揚した気分でもない。

昨日の晩、今日こういう気分になることがある程度予想できていたので、ジンとトニックウォーターを買い込んでいた。

なのに今飲んでいるのは、ジンライム。


人生とは本当に予測不可能だ。何が起こるかわからない。

絶対に安全だと言われている飛行機が落ちることもあるし、「結婚なんかに興味はない。」と言っていた人が急に結婚して幸せそうにしていることもある。1日中働きっぱなしだった人がある日突然、瞑想を始めることだってある。そして、ジントニックを飲もうと思っていたのに気がつけばジンライムを飲んでいることだってある。


全くもって予測不可能だ。


この狭い部屋でもう一つ予測不可能な事が起きた。

そう、何年かぶりに 叔父貴 に電話をかけた。どうしてるのかなと思って。

叔父貴 というのは同級生のあだ名で、どういう経緯でそんなあだ名がついたのかは僕は知らない。ただ、僕の中では間違いなく 叔父貴 という印象だからずっとそう呼んでる。

急に電話をかけたくなってかけた。


「はい。誰でしょうか?」

「しぬる でございますが、覚えてますでしょうか?」

(しぬる というのはほんのごく一部の人々のなかでの僕の、即ち、絹川一城のあだ名だ。なぜ しぬる と呼ばれだしたのかははっきりと覚えてないけど、「このメンバーのなかで一番早く死にそうだ。」とかそういう下らない理由で呼ばれだしたような気がする。気がするだけでもっと他の理由があったかもしれないけど思い出せない。思い出せないという事はたぶん、そういう理由で呼ばれ始めたんだと思う。ちなみに僕はこのあだ名で呼ばれる事が嫌いじゃない。街中で、「絹川!」「一城!」「キヌ!」「しぬる!」と、このなかのどれを呼ばれてもきっと振り向く。まあ、後ろから声をかけられた場合に、だけれども。)


「ああ、しぬるさんか。覚えてますとも。一回携帯電話が壊れてしまったもので、、、だれだかわかりませんでした。」


「で、調子はどう?」


「調子ですか?相変わらず 低空飛行 でございます。なんの目的もなく、目標もなく、明日できる事は明日にして、引き伸ばせる事はなるべく引き伸ばし、今日できることのみを淡々と行っております。ただただ、気楽に生きております。」


「そうなんや。」


「そうでございます。連中 から見ると死んだような生き方にみえるかもしれませんが、私から見れば、連中は生きているように見えて、もうすでに死んでおります。女共は、胃の2割も満たすことのない、小さな弁当箱で飯を食らい、残りの8割、もしくは9割や10割を満たすために、仕事帰りのコンビニにて、甘いものや脂っこいものをしこたま買い込み、それら全てを平らげ、そうしてまた次の日、小さな弁当箱に箸を伸ばしながら「私、小食なのに全然痩せない。」とわけのわからぬことを抜かしております。そして男共は、上昇志向の幻想に取り憑かれ、その原動力はなんなのか?を考えることもなく、自分の欲を満たすために他人を蹴散らし、切りつけ、存在しない階段を駆け上がるために躍起になっております。」


「そうか。」


「私から見る世界 はそうでございます。その切りつけた相手の、見えぬ返り血を受け、その 返り血 はやがて腐り始め、彼らの身体中を駆け巡り、異臭を放っております。彼らはその匂いに慣れているので気がつきませんが、私には耐える事ができません。」


「うん。」


「その腐った返り血の副作用は見ればすぐにわかります。青ざめた顔し、目はうつろで、人によっては禿げ散らかした頭をしており、さらにそれを隠す というこれもまたわけのわからぬ事を行っております。」


「うん。」


「別に彼らが悪いと言っているのではありません。彼らをそうさせているのは、これもまた存在しない、見えぬ  レール に沿って生きたからそうなったと思われます。レールに沿って生きたものの末路は、これもまたレールの上でございます。日々どれだけ電車が止まっているかご存知でしょう?」


「うん。」


「私からすればそこまでせずとも生きる方法はいくらでもあるのに、、、と思うのですが。ただ単にレールから降りればいいだけです。飛び込む前に、降りればいいだけです。」


「相変わらず、ブラックユーモアがきいてんなあ。笑」


「彼らはレールから降りる事がそんなに怖いのでしょうか?まあ、最初からレールに乗る事が出来なかった 私ども には、その恐怖を理解する事はできませんが、、、」


「今、須磨に住んでる。来る?」


「誘っていただいたのに誠に申し訳ありませんが、気が向いた時でよろしいでしょうか?それはすぐにかもしれませんし、ずっと後かもしれませんし、一生気が向かないかもしれませんが、、、私は気が向いた事以外はしたくありません。やらなければならない事はどのみち放っておいても、やらなければならない状況になります。それならば、先のことをあれやこれやと考えずに気の向いたことだけをしていればいいわけです。」


「お酒飲めるよ。来る?」


「ああ。それは良いですねえ。少し気が向いてまいりました。そう遠くない将来、伺わせてもらいます。絶対にとは言い切れませんが。」


「わかった。じゃあまた。」


「ええ、そう遠くない将来に。絶対にとは言いませんが。では。」



僕は叔父貴の独特の表現や、喋り方が好きだ。この会話は、二人の間のおきまりのジョークみたいなもんなんで、本気にしないで欲しい。彼が僕に さん 付けなのも、敬語で話すのも軽いジョークみたいなもので、関係性に上下はない。


実は、ごく稀に、彼の幸せを願ったりしてる。ほんとに稀だけど。



Invitation (LIVE MIX)[with Lyrics] - Dragon Ash

キヌズBAR日記

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