グラウンド・ゼロ
思い返すといつも酔っ払ってた。
常に不安でいっぱいだった。
いつも、消えてしまいたい衝動に駆られてた。
死にたい って感じではなかった。
存在 ごと消してしまいたかった。
最初から居なかったかのように。
自分 とは何かがさっぱりわからなかった。
唯一の救いがアルコールだった。
酒を本格的に飲み始めたのが、15の夜だった。(未成年の飲酒に時効があるのかどうかわからないけど、時効だと僕の中では思っているので許してほしい。もし僕が有名人や、芸能人ならブログが炎上して、事務所側が火消しに躍起になるのだろうけど、僕はどうってことのないさえない32歳の男だ。どうかやさしき読者の皆さんはそっとしておいて頂けるとありがたい。別に僕はよくありがちな昔の 悪かった自慢 をしたいわけではない。これから話す内容を書くのにどうしてもこのことを避けては通れないので、仕方なく書いた。黙っていた方が良い。ってのは生きていく上でよくあることだ。でも仕方がないから書いた。もちろん、言葉を放って自分の意見を主張した方が良いってことも生きてく上で必要な時があるってのもわかっている、、、けれどもどんどん話が逸れてしまうのでこの事はここで終わる。15の夜だった って書いたけど尾崎豊とはなんら関係ない。好きだけれども。でもこの言葉しか思い浮かばなかったし、事実としてそうだったからそう書いた。盗んだバイクで走り出したことはない。16の頃にアルバイトでお金を稼ぎ、中型免許を取りに行き、ローンを組んで買った新車のドラッグスターで走り出してた。バイカーは人のバイクを盗んだりしない。だって、バイクの趣味は違えど、どれだけ大切にしてるかってのがわかるから。ただ僕は、バイクの構造に関しては全くの無知だ。)
高校生活にうんざりしてた。
何の意味があるのか全く理解が出来なかったからだ。
とにかく抜け出したかった。支配から卒業したかった。(また尾崎が出てきたと思っている人もいるかもしれない。正解!これはわざとに意識して書いた。)
自分を変えたいって思ってた。何かが変わるかもしれないと思いバンドを組んだ。僕はエレキギターを弾いていた。バンドのドラムの奴の家の納屋で、毎日学校が終わった後にたむろして適当に練習してた。近くを通りかかった小学生数名が音を聴きつけて、納屋に入ってきた事が一度だけあった。放って置くのもかわいそうなので、HIDEのロケットダイブを演奏してあげた。
僕が「感想は?」と聞くと、その小学生の中の一人が「うるせえしへたくそ。」とだけ言った。
僕の人生で最初で最後のライブになった。
酒を飲み始めたのはその頃だった。
ドラムの奴が、「親父が毎月酒屋から瓶ビールをケースで買ってるから、それを飲もう!ちょっとくらい飲んでもばれないよ。」という話になってメンバー全員で飲んだ。
それはねえ、もう。言いようがないほど良い気分だった。ここが天国じゃないか。って気分にさせてくれた。訳のわからない苦しみや、理由のない痛みから僕を解放してくれた。
いつしか、バンドの練習をする為じゃなくて、ビールを飲む為にそこに通うようになってた。
ギターの練習なんてそっちのけになってた。
で、それがばれて僕はクビになった。
酒を飲む手段を無くした僕に、また、暗くて重い雲がのしかかってくるようになった。
神経がどんどん過敏になっていった。道端に咲く花にさえイラつくようになっていった。
「なんでお前は、そんなとこに咲いているだけなのに 美しい といって人から愛されるんだ?」ってな具合に。
その頃、誰だかは忘れたけど僕にこう言った。
「あんたはまるで、ビニールカバーのない電気コードみたいだね。いつショートしてもおかしくないよ。何でもかんでも反応しちゃって。カバー必要なんじゃない?」
そんなセリフも僕の耳に入らずに、ますます神経は過敏になっていった。言葉もまともに出てこなくなった。笑わなくなった。とにかく八方塞がりな気分だった。
そんな精神状態でまともに勉強できるはずもなく、学校の授業中、ほとんどボーっとしてた。
もともと成績は良くなかったけど、さらに悪くなっていった。
学年のビリから2番目まで成績が下がっていた。
「ああ、俺はいつだって中途半端だな。ここでも 1番になれない。」そんな事を思ってた。
赤点が続き、追試の日がやってきた。
これに合格しないと、留年が決定する事になってた。
朝、布団の中で行くかどうか迷っていた。
どうでも良くなってきて、そのまま寝る事にした。
数日後、校長室に呼び出された。校長は僕にこう言った。
「この学校は一応進学校なんだ。君みたいなのがいると、イメージが悪くなるんだよ。留年してでも頑張ります!というよりは、学校を辞めて欲しいんだがねえ。」
とても悲しい気分になったけど僕はこう答えた。
「はい。最初から頑張るつもりはありませんでしたので。わかりました。そうします。」
僕はその日から、ひたすら眠り続けた。ずっとずっと。永遠に眠っていたかった。
2週間ぐらいそういう生活を続けただろうか、ある同級生の言葉を思い出した。
「焼き鳥屋でアルバイトをすれば、いくらでも酒を飲める。」
早速アルバイトを探す事にした。
アルバイトの探し方をよく知らなかったので、家にあったタウンページを開き、とりあえず近所の焼き鳥屋に電話をかけた。(つい先日、メガネをなくしてしまったので、紛失届けを出そうと思ったんだけど、どこにかければいいのかわからないので、とりあえず110番にかけた。「はい、どうなされました!」とやや早口の口調で相手が電話に出たので、「いや〜酒によっぱらててメガネをなくしてしまったんですよ〜。」とゆっくりめに答えた。「何?メガネを無くした?この番号は緊急な時にかける番号ですよ!」今度は強い口調で答えてきたので、僕も強めの口調で「大切なメガネなんです!僕にとっては緊急事態なんです!」と答えた。するともっと強めの口調で「何?ふざけてる?緊急ってそういう意味じゃないよ!紛失届けはこの番号じゃないんだよ!そういうこと!わかる?今から番号いうからメモってね!」「ふざけてはないですよ。紛失届けはこの番号じゃないんですね?わかりました。メモをとってくるので少し待ってて下さい・・・」こんな感じでやりとりは終わった。あの頃から何も変わってない。僕は社会の仕組みってのが未だに全く理解できない。それでもまあまあ楽しく生きてる。知りすぎる ってのもあまり良くないのかもしれない。)
「お電話ありがとうございます!大吉です!」(一応、迷惑がかかってはいけないので、どこの大吉なのかは明かさない。)
「あっ、、、あの、、、アルバイト、、、したいんですけど。」
「おお!いいタイミングだったわ!今バイトは募集してないんだけど、もう少しでやめる子がいるから変わりを探そうかなって思ってたとこなんだ。面接、明日来れる?」
「あ、、、、はい。」
「じゃあ、明日の16時に店にきて。履歴書とかいらないから。」
「あ、、、、はい。で、、履歴書ってなんですか?原付の免許証ならありますが、、、」
「何?履歴書しらない?まあいいや、いらないから知らなくてもいいよ。じゃあ明日。」
ガチャ。
その日は眠れなかったなあ。電話なんてかけなければよかった。焼き鳥屋って接客業だろ?俺に出来るはずないじゃん。頭の中がぐちゃぐちゃになって、同じことがグルグルと回った。
そして次の日、16時、面接が始まった。
「名前は?」
「き、き、きぬ、か、か、かずき。きぬ、き、きぬがわ、かずき。です。」
「年齢は?」
「じゅ、じゅう、16歳です。」
「高校生?」
「はい、い、いいえ。で、でし、でした。行ってません。や、や、やめました。」
「そうなんだ。ここは接客業になるけど、笑顔でお客さんに対応できる?大きな声出せる?」
「わ、わ、わかり、わかりません。げ、現時点では、む、む、無理だと思います。で、でも、できるようになる、か、か、可能性もあると思います。」
「正直だなあ。普通はわかんなくても はいっ!出来ます!頑張ります! って答えるんだよ。でもその素直な所が気に入った!来週からおいで。」
なぜか僕は、焼き鳥屋の面接に合格した。
なんとか社会との接点を、取り戻した。
みなさんもお馴染みの、初出勤日のあの緊張も乗り越え、様々な出来事、嫌な事、楽しかった事、嬉しかった事を経験し、なんだかんだで2年くらい続けたんじゃないかなあ。
その2年間の間に、まかない と称して酒をいっぱい飲ませてもらった。空手を習い始めた。バイクの免許を取得して、ドラッグスターを購入した。
題名にある グラウンドゼロ ってのはその頃に僕が所属していたバイクチームの名前だ。
主要メンバーは4人、準メンバーを合わせると10名以上、ほとんどが板金屋の職人とその職人の連れ周り(ちなみに僕は友達の事を、連れ とは呼ばない。しっくりとこないので会話の中で使った事がない。ただ、彼らがそう使ってたのでそう書いた。)で構成されていた。
そのバイクチームのリーダーは、身長が高く、人と視線を合わそうとしない、人見知りの激しい、しかしアルコールが入ると饒舌になる、17歳の少年だった。
そう、僕だ。
もう、笑えてきただろ?
なんでお前が?って思うだろ?
わかったよ。ちょっとまて、今から僕がグラウンドゼロのリーダーになるまでのとてもくだらない(そしてとても大切な)エピソードを話すから。
僕がバイトに入った頃、毎日といっていいほど、カウンター席に板金屋の職人たちがたむろして騒いでいた。そう、どんちゃん騒ぎを。
その向かいで僕は、愛想笑いもせずに、一言もしゃべらずに、ただ黙々と皿洗いをしていた。
心の中で「絶対話しかけてくるなよ。」と思いながら。
でもそうはいかない。やがてその中の一番年長の職人が話しかけてくるようになった。
「おい。お前、いつもつまんなさそうな顔してるなあ。全然しゃべらないしなあ。一杯飲むか?」
僕はどうしていいかわからずに、店長の方を見た。
店長はこくりと頷いた。
「あっ、、は、はい。い、い、、、。」
「なんだお前、吃りか。それでしゃべらないのか。まあいいや、さっさと自分で生ビールついで飲めな。」
「はっ、はい。」
僕は、言われるがままにビールを注いできた。
そしてそのまま突っ立ってた。
「何してんだ?そういう時は いただきます。 って言って飲めばいいんだよ。」
「はっ、はい。い、い、いた、いただ、、、」
「ハッハッハッ!!吃りだったわ!ごめん。もう飲めよ!」
「はっ、はい。」
僕はとても喉が渇いていたので一気にビールを飲み干した。
「おおっ!!いけるねえ!もう一杯いけ!いただきます は言わなくていいから!」
「はっ、はい。」
僕はもう一杯ついできて、今度は半分くらい一気に飲んだ。
気分がリラックスしてきて、頭は逆に冴えてきた。
「おっ!お前、まともにしゃべれないくせになかなか飲めるな?」
「どうなんですかね?飲める方なんですかね?よくわかんないですけど、、、」
「なんだこいつ!いきなりまともに喋り始めた!」
そして、店長の方を向いてこう言った。
「おいマスター!こいつちゃんと喋れるじゃん!」
「はい、そうなんですよ。その子 絹川 って言って、アルコールが入るとなぜかちゃんとしゃべれるようになるんですよ。」
「へえ。変な奴だなあ。おい、絹川よ。お前、年はいくつだ?」
「16歳です。」
「そうか、俺の息子とあんまり歳がかわらんなあ。じゃあ息子って意味で今日からあだ名は ボン だからな!わかったな!ボン!」
「はい、わかりました。」
その日から色々と会話をするようになった。お酒を飲まされてからだけど。
「おい、ボンよ。お前趣味はないのか?」
「特にないです。昼寝することぐらいですかね。」
「昼寝ってお前、学校は?高校行ってる歳だろ?」
「朝起きれないので、やめました。」
「そうか、あんまり意味がわからんけど、俺も中卒だから似たようなもんか。ほんとに趣味はないのか?」
「はい。でも最近、バイクの中型の免許をとりに行ってます。」
「おおそうか!」
「欲しいバイクはあるのか?決まってんのか?」
「はい。ヤマハのドラッグスターにしようと思ってます。」
(その頃、父親にも 欲しいバイクは決まってんのか? と聞かれた事がある。ドラッグスターが欲しい と答えた。すると父親は なんだ?麻薬王って意味か?あぶねえなあ。とか面白くもない事を言い始めたので、 たぶんちがう とだけ答えた。すると 違う?じゃあどういう意味なんだ?ドラッグスターなら 麻薬王 だろ?パブロ・キヌガワ・エスコバル・カズキとか名乗るのか? とかさらに面白くもない事を言ってきた。だんだんイラついてきたので ヤマハに問い合わせて聞けよ。とだけ言って会話を切った。)
「おお!いいね。アメリカンか。俺も大型のシャドウに乗ってんの。アメリカンの方がかっこいいよな!」
「はい。僕はネイキッドタイプより、アメリカンタイプの方が好きですね。」
「よし、じゃあボンがバイクを買ったら、バイクチームでも組んでツーリングでもいくか!」
「でも僕、あまり友達がいないので人数が集まりませんよ。」
「友達がいないくらいみりゃわかるよ。その辺は俺にまかせとけ。若い衆を連れてくるから。それに、オイ!マスター!お前も入るよな!」
と、突然、焼き鳥を一生懸命焼いている店長に話を振った。
店長は、焼き場から視線を変えずに
「私ですか?私、バイクの免許もってませんよ。」
と言った。
「なんだよ。持ってないのかよ。じゃあ、ずっと焼き鳥焼いてろ。いやまて、会計係ならできるだろ?」
「はあ、それくらいなら。」
「よし、じゃあ、マスターは会計で決まり!俺は副リーダー、ボンはリーダーな!」
洗っているグラスを落としそうになった。
「えっ?僕がですか?なんで?」
「いいからやれよ。細かい事はいいんだよ。だから早くバイク買え。わかったな?」
「わかりました。それと、、、僕、友達は少ない とは 言いましたけど 全くいない とは言ってないですよ。」
「うるせえなあ!細かい事はいいんだよ。さっさとバイク買えよ!わかったな?」
「あっ、はい。わかりました。」
僕はそれからバイトを増やした。焼き鳥屋の他に、深夜のレジ打ちのバイト、潰れかけのお好み焼き屋、建築現場、引越し屋、イベント会場設営、ホテルのウェイターetc
(どこにでも良い人はいたけど、どこにでも糞みたいなやつはいた。
建築現場で、雇われ先の下っ端と喧嘩したのを思い出す。
今思い出しても、腹がたつのでここで吐き出しとく。
指示通りに動いても何かにつけて、いちゃもんをつけてくるバカだった。
こっちが日雇いだと思って舐めてたんだろうと思う。
どんどんイライラしてきて、顔がムスっとしてきた。
よおし、ここが攻めどきだ!と言わんばかりに口撃してきた。
「なんだお前、何ムカついてんの?雇われ先にそんな態度とっていいと思ってんの?」
この言葉に切れてしまった。
「何が雇われ先に。だ。お前はただの下っ端じゃねーか!お前に金もらってんじゃねーんだよ!段取りは悪いし、口から出てくる言葉はアホの極みだし、そもそも顔からして頭の悪さが滲み出してる。俺の頭で想像出来うる最も悲惨な死に方で死ね!この糞!」
たぶん、しばかれるんだろうな。(これ、関西弁で ボコボコにされる の意味ね。)と覚悟した。喧嘩したら負けるだろうから。
そのマヌケは、意外な事にこっちに向かって来なかった。プルプルと震えたままどこかへ消えた。
上司らしき人が現れて、今日の日当は出すからもう帰っていい。二度とここには来るな。と言った。
めっちゃ、ラッキーじゃん。と思った。誰がくるかよ。と思った。そしてマヌケ、お前は死ね。俺の頭で想像出来うる最も悲惨な死に方でな。とも思った。
この話はここで終わり。)
バイクの免許を取り、頭金を揃え、ローンの目処がついてドラッグスターを購入した頃には17になってた。
「おい、ボン!やっとバイク買ったか!よし、じゃあチーム名を来週までに考えてこい!それとチームのシンボルマークもな!ステッカー作るから!来週までだぞ!わかったな!」
「は、はい。わ、わかりました。で、今更ですが、なんで僕がリーダーなんですか?」
「だってお前、全然しゃべんないから舐められそうじゃん。ハクをつけるためだよ。調子こいた奴がつっかかってくることもこれからあるだろ?17歳にして板金職人達をまとめてるバイクチームのリーダーなんだ。って知れば黙るだろ。なあ、マスター?」
「いや、どうですかね〜。まあ、いいんじゃないんですか。私は会計係で関係ないですし。」
遅れると怒られそうなので、速攻で考えた。
当時9・11で騒がれていた。ニュースで グラウンドゼロ という単語をよく聞いてた。意味は 爆心地 という意味らしい。不謹慎だと思いつつもチーム名はそれにした。
あとは、シンボルマーク。XJAPANのhideが海外デビューのために組んでいたバンド「zilch」(何語かはわからないけど ゼロ という意味だったはず。)のファーストアルバム 3・2・1 のジャケットをもろパクリした。超適当だったけどなんとか間に合わせた。
「おいボン。考えてきたか?」
「あっはい。ちょっと不謹慎かもしれませんが、グラウンド ゼロ。意味は 爆心地 です。 」
「不謹慎だとかそんな前置きはいらねーよ。そんな事気にしてたら世の中不謹慎な事だらけだ。何もしゃべれなくなっちまう。思ったことを、思った通りに言えよ。」
「は、はい。グ、groundzero い、意味は爆心地です。」
「それは今聞いたわ。で、チームのデザインは?」
さっき言ったアルバムに書かれていた 零 もモチーフにして描かれたデザインの前に、groundを付け足しただけの適当なものを見せた。
「うん。いいね。じゃあこれでステッカー作るわ。」
「じゃあ明日、groundzero結成を祝って、俺が若い衆をここに集めるから、お前、みんなの前でスピーチな。」
「え?ぼ、僕がですか?な、何を言えば良いんですか?」
「だーかーらー、思ったことを思った通りに言えよ。僕がですかって、お前がリーダーだろうが、なあマスター?」
「え?まあ、、、はい。ボンがリーダーで、私が会計です。」
その日は、眠れなかったか?といえばそうでもない。酒を飲んだらなんとかなるか。と思いながら普通に寝た。
19時に店に着いた。当たり前だけど店長がいた。そして副リーダーがいた。そして副リーダーの言う 若い衆 が数名とその ツレ が数名。(どこまでが 若い衆 でどこまでが ツレ なのかは僕には判断がつかなかった。)10人かもうちょっとくらいいたような気もするけど緊張してて覚えていない。
「おお、ボン、、、失礼。リーダーが来たぞ。ここに座れ。」
と言って全員が見渡せる場所に座らされた。大体の話をみんな聞いていたのだろうか?ニヤニヤしながら僕の方を見てた。
「もう一回言う。こいつがリーダー。で俺が副リーダー、そしてマスターが会計。だよな?」
「はい。私が会計です。」
「じゃあ俺がケツ持ちしまーす!」といきなり 若い衆 らしき一番いきの良いのが手を挙げた。
ほんとなんなんだよコイツらのノリは、なんでこんなにテンションが高いんだよ。と思った。
「まあ、このチームは暴走族じゃないんで ケツ持ち なんかいらねーんだけど、、、別にいいや。お前ケツ持ちな。」
と副リーダーが言った。続けて、
「よし、リーダー。これからはお前がしゃべれ。チーム名とその由来、そのあとはお前が思った通りの事を思った通りにしゃべれ。」
とりあえず僕は立ち上がった。恥ずかしいので俯いてた。
あまりにも僕がしゃべらないので周りがざわつき始めた。
「あっ、忘れてた。こいつ飲まねーとしゃべんないから。マスター!とりあえずビールを2杯ついで持ってきて!」と副リーダー。
「はいよ!!」と元気よく答える会計。
「よし、呑め呑め!」と騒ぎ立てるケツ持ち。
出されたビールを一気に飲み干す僕。
その日は緊張して何も食べてなかったので、効果はすぐに現れた。
アルコールが全身に染み渡った。
リラックスを通り越して、 魂の箍 が外れた感じだった。
これはやりすぎた! と直感したけど、もう遅かった。こうなったらもう止まらない。
「店長!もう一杯ください!」
僕はそういった。
「もう一杯って、みんなボンがしゃべるの待ってんだぞ。」
店長はそう答えたけど、僕は少し食い気味で
「うるせえなあ!会計がリーダーの言う事が聞けないのかよ。早くもってこいよ!」
と答えた。
これがなぜだか、みんなの爆笑を誘った。
心の端っこで しまった! と思ったけど、店長はこの流れに乗ってくれた。
「はい、失礼しやした!今すぐに用意します!リーダー!」
また運ばれてきたビールを飲み干した。もうこうなるとわけがわからなくなってくる。
というか、もうどうでもいい。といった気分になってきた。
「よし、場もあったまってきたようだから、リーダー頼むぞ。お前は 今 はリーダーという役割でそこに立ってるんだからそのつもりでしゃべれ。別にかしこまる必要なんてない。」
と副リーダーが言った。
「わかりました。」
と僕。
「わかりました。じゃないだろ?」
と副リーダー。
「・・・うん。わかった。」
と僕。
「よし、じゃあ今から俺がしゃべるから良く聞けよ!」
イェーだとかウェーだとか、そんな冷やかしも入ったけどそんなのは気にならなかった。
「チーム名は ground零 だ。意味は 爆心地 だ。アホなおまえらでも簡単に覚えられるだろ?」
なぜだか、これも受けた。
「この場所はいつだって ゼロ だ。日々みんな面倒臭いことや嫌なこともあると思う。そんな時はここで呑み明かそう。すべてを ゼロ に戻そう。そしてまたここから始めよう!ここから広げよう!ここから爆発させよう!だから グラウンド零 だ!ここが爆心地だ!」
もう、ほとんど意味のわからないことを叫んでた。
「そしてこの場を借りて言う。店長。僕を雇ってくれてありがとうございます。初めてのアルバイトがここで本当に良かったと思ってます。ここに来るまで、大人なんて嘘つきばかりだと思ってました。自分を守る事だけに必死になって、何が面白いんだろう。って。あういう風にしか生きていく事が許されないんだったら、早く死んだほうがマシだってずっと思ってました。でもここには、なんか変だけど楽しそうに生きてる連中がこんなにたくさんいる。僕を受け入れて下さってありがとうございます。僕が店長の立場だったら面接の時点で落としていると思います。本当にありがとうございました!」
ツレ らしきの中の一人が「うん、、わかる、わかるよ、、、」と言って泣いてた。(いや、マジで!)
「まあまあ、ね。ほら、、、人がいなかったからね、入れたのは。それに、一番変なのはお前だからね、、、」
と、店長がボソッとつぶやいた。
空気の読めない僕は少し場をしらけさせたようだった。
「よーし、リーダーの初演説も終わった事だし、みんなで騒ぐか!マスター!みんなのビール持ってこい!!」
と副リーダー。
「はいよ!!」
と元気よく答える店長。
ウェーイだとかイェーイだとか、騒ぐ他のメンバー達。
どんちゃん騒ぎは深夜まで続いた。たぶん。
たぶん。ってのはその先の事をほとんど覚えていないからだ。
もうお気づきの方もいるかもしれないが、僕のスピーチの中で バイクチーム だという一番大事な事を伝え忘れている。
ground零 結成後も、集会と称したどんちゃん騒ぎがいつものように行われた。
結局変わったのは、僕のあだ名が ボン から リーダー になっただけだった。
僕はといえば、そのどんちゃん騒ぎを尻目にグラスや皿を洗い、お客さんから注文を聞き、飲み物や料理を運ぶ日々を送った。
たぶん、顔の広いメンバー達が色んなところにステッカーを配ったのだろう。
街中で、ground零 と書かれたステッカーが貼られたバイクや車を稀に見かけた。
その度に、「あんたらは知らないかもしれないけど、そのチームのリーダーは俺なんだぜ。」と少しだけ誇らしく思った。
誰も知らない。誰も見た事がない。でも確かに存在するリーダー。それが僕だった。
それから性格も明るくなり、可愛い彼女が出来て、やりたい事が見つかって、就職先が見つかりましたとさ。めでたしめでたし。っていうハッピーエンドだと思った?
そんな事はない。ハッピーエンドでも、バッドエンドでもない。まだ終わっちゃいない。
キヌのストーリー は現在も進行中だ。日々新たにこの 何もなさ から紡ぎ出され続けている。
いうまでもなく、今まで書いたストーリーは全部が全部本当の事ではない。
場所によっては話を盛ったり、都合の悪い部分は削ったり、二人の人物を一人に混ぜ合わせたり、バラバラのエピソードを一つにまとめたりした。
なので時系列が、前後逆のところもあるし、順番通りではない。
どんな方法なのか?と問われれば困るけど、キヌ式筋反射テストによって調べたところ、60パーセントから75パーセントぐらいは本当の事が書かれている。というものすごく曖昧な数値がでた。(ちなみに、キヌ式筋反射テストなんてない。今考えたからだ。)
作家のチャールズ・ブコウスキーが自伝的小説を出した頃、熱心なファンがブコウスキーの過去を色々と調べ上げ、「あそこの部分が事実とは異なっている。あんな人物はいないはずだ。あのエピソードは自分の都合のいいように書いている。」などと直接指摘しにきたそうだ。
それに対してブコウスキーは
「そりゃそうさ、自分の都合のいいように書くのは、 書く者 の特権さ。自分の言葉でさえ書ければ俺はそれでいいんだ。そもそも俺の書いた本はそんなに熱心に読むような類の物じゃない。お前に適した高尚な本が世の中にはいっぱいあるよ。それらをかき集めて本棚に飾って毎日拝んでればいい。つまりお前はファンじゃない。本当のファンならいちいちそんな事気にしたりしないし、言いに来たりはしない。ただ黙って楽しんでるよ。お前みたいなやつは少し窮屈すぎる。本当の楽しみ方を知らない。」
と答えた、とか答えてないとか。
見ればわかると思うけど、僕のブログも熱心に読むような類のブログじゃない。
本当に暇なときに読んでもらうぐらいが丁度いい。(暇つぶしになるかどうかもわからないけど。ただ本気で書いている。そこだけは本当だ。)
毎日目を通して、毎日イイね!を押して、毎日コメント欄に張り付いて、毎日「凄い気づきが今訪れました!」だの「すごく腑に落ちました!」だの「今、これを読んで 愛と感謝 が溢れて来ました!」とか書き込むようなブログじゃないってこと。(コメントいらないとか、そういう意味じゃないです。コメントいただいている方、本当に嬉しいです。うまく表現出来ればいいのですが。)
そんな毎日、大きな気づき が訪れていると20年後には歴史に残るような大聖者になっちゃうよ。
そして100年後には、本が出版されているかもしれない。
そして1000年後には、それが原因で戦争が起こっているかもしれない。
1000年後に人類が存在していれば。の話だけど。
なんで今回はこんなに長文になったのかと言うと、最近外に飲みに行くのを極力避けているから。
ちょっとだけ、死にかけた。
だから、仕事から帰ってきたらほとんど家にいる。酒も前ほどは飲んでいない。
他にすることがないので毎日、少しづつ書き足してたら長文になった。ただそれだけ。
それと、「過去は変えられない」ってよく言うよね。最近それが疑わしく感じられてきた。
別の視点からみると、違った過去の捉え方ができるんじゃないかと思って。そういう意味では、過去は変えられるんじゃないか、と、それで書いたってのもある。
ちなみに、ground零 は解散していないので一応、存続していることになる。
そして一応、まだ僕が リーダー って事になってる。
ってことは今現在、ground零 の本拠地は キヌズBARにある。
爆心地はここにある。
静寂さは時に、爆発的なエネルギーを生み出す。
おはよう。
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