傘をみれば思い出す。
小学生の頃、学校に行こうと靴を履くたびにおばあちゃんが後ろからトコトコと歩いてきて、
「今日は昼から雨や。傘持って行きや。」
「今日はよう晴れて暑くなる。気いつけや。」
とその日の天気を教えてくれた。
その話を、父親が漁師をしているクラスメートに話すと、
「おばあちゃん早起きして、どこかに出かけてない?空模様と、潮の流れを見るとその日の天気がわかるって親父が言ってた。」
たしかに、そう言われてみるとおばあちゃんは早起きをしてどこかに出かけている様子だった。布団の中からなんとなく、そんな気配を感じていた。
ある日、とても朝に弱い僕が、早い時間に目が覚めた。
となりのおばあちゃんの部屋から、ズーズーとお茶をすする音が聞こえてきた。
布団から飛び起きて、おばあちゃんの部屋にいった。
「なあ、おばあちゃん。何しとん?」
「おお、かずき、おはよう。今日ははやいな。何してるんってお茶飲んでる。それとテレビ見てる。」
「テレビって何をみとん?」
「何みとんって、天気予報やないか。今日の天気知っとかなあかんやろ。」
「え?空と海を見て今日の天気を知るんじゃないの?それでいつも朝早く出かけるんじゃないの?」
「ははは。漁師じゃあるまいし、わかるはずないやろ。おばあちゃんはいつも天気予報やで。朝出かけるのはゴミ出しと、近所の人との立ち話や。」
「ショック。おばあちゃんの秘密を知ってしまった。」
「何がショックや。天気を知るのは天気予報。肌が荒れたら皮膚科。骨が折れたら整形外科。そういうもんや。学校までまだ時間あるやろ?もう少し寝とき。」
雨の日、傘を見るたびに思い出す。
もう少し寝るわ。
(おばあちゃんは、今でも元気です。数ヶ月前に左足が痛くてうまく歩けない。と言っていた。めちゃくちゃ気にしてたわけじゃないけど、ほんの少しだけ気にしてた。(いや、本当にほんの少しだけ。)そのことを考えながら職場にバイクで向かってたら、だいぶ前の記事に書いたと思うけどトラックが急に進路変更してきて、避けようと思ったらこけた。左足を打撲した。本当かどうかは知らないけど、おばあちゃん曰く、その日から足の痛みが軽減したそうで歩くのが楽になったそうな。「かずきが痛みを引き受けてくれたんやな。」と抜かしやがった。「コラまて!俺、引き受けすぎやろ!今度からはちょっとだけにしてくれ!」と言ったら、「冗談や、冗談。無事で何よりや。」とな。)
もう少し寝るわ。
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